日本経済会計学会学会賞(著書の部)

 学術賞審査委員会及び理事会の審議を経て、2020年12月12日、薄井彰日本経済会計学会会長は、以下の卓越する学術著書に対して、日本経済会計学会学会賞(著書の部)を授与しました。

受賞作:
 『会計と社会 公共会計学論考』慶應義塾大学出版会刊、2017年10月23日

受賞者:
 黒川行治(慶應義塾大学)

受賞理由
 本書は5部、26章、8補論から構成される700ページを超える力作である。第Ⅰ部は「社会と会計」、第Ⅱ部はクローバリゼーションと会計社会との関連を対象とした「市場と会計」、第Ⅲ部は、会計基準の具体的内容やその設定の背景を中心とした「個人・組織と会計」、第Ⅳ部は「環境と会計」、第Ⅴ部は社会的選択と私的選択を対象として「公共・政府と会計」というタイトルで、著者の20年以上に亘る多くの論文を再編集し、3本の書き下ろしを加えた従来の会計学の枠組みを超えた公共哲学的な視点から会計学を俯瞰するものとなっている。
 この大著の中で著者は、会計を社会システムのサブシステムとして捉え、会計に関わる当事者、当事者の行動、当事者を取り巻く内部環境および外部環境の総体として定義する「会計社会」として捉える一貫した姿勢から、多岐に亘る会計および会計研究の問題を批判的に検討している。このような観点から会計学の論点を集約した書籍はこれまでなく、その集合体としての本著作は独創性・新規性の観点から高く評価できる。また、現代の会計を個人や組織の効率性に加えて社会全体の効率性を両立させるために不可欠な存在として定義し、その論点を社会的厚生の改善の観点から再整理し体系化している点は本学会の研究領域に対して大きな学術貢献を有すると評価できる。
 特に、個人および組織の倫理や道徳、人的資源、持続可能性などの定量化することが難しく、計量的な実証分析が困難な領域に関して、公共性の視点から会計学の方向性を位置づけているが、長年に亘り財務データを活用した実証分析を研究し、かつ複数の中央省庁の審議会や専門委員会などで政策決定にも関わっている著者により裏付けられ、体系化された論考であり、会計そのものの社会貢献を示すと共に、会計学者あるいは広く社会科学者さらには会計プロフェッションが持つべき哲学をも深く考えさせる著作となっている。
 以上により本書は卓越する学術書であり、日本経済会計学会学会賞(著書の部)に相応しい。