日本経済会計学会学会賞(著書の部)

 学術賞審査委員会及び理事会の審議を経て、2020年12月12日、薄井彰日本経済会計学会会長は、以下の卓越する学術著書に対して、日本経済会計学会学会賞(著書の部)を授与しました。

受賞作:
 『財務制限条項の実態・影響・役割-債務契約における会計情報の活用-』中央経済社、2018年3月25日刊

受賞者:
 中村亮介(筑波大学)
 河内山拓磨(一橋大学)

受賞理由
 本書は、財務制限条項に関する包括的かつ体系的な実証研究であり、4部・12章から構成され第Ⅰ部で先行研究の整理と実態分析を行った後、第Ⅱ部では財務制限条項が実態行動に及ぼす影響、第Ⅲ部では会計行動に及ぼす影響、第Ⅳ部では株式市場に及ぼす影響を分析するなど、多くの実証研究を行っている。さらに、いずれの分析においても著者らのそれ以前の論文で用いたサンプルを拡張し、追加分析を行うなど大幅な加筆修正を行っている。
 この中で、特に本書による大きな学術的貢献は次の2点である。第1に、米国との違いを実証的に明らかにした米国では負債のエイジェンシー費用を削減するために、多種多様な財務制限条項が設定されているのに対して、日本では画一的な条項のみであることと、米国で期待されているような財務制限条項の働きは、日本では十分に観察されていないことを示していることである。さらにこの要因として、日本企業はメインバンクへの依存度が高く、メインバンクは私的情報を利用して貸付企業をモニタリングするため、公的情報である会計情報を重視しない可能性があることを指摘している。第2に、財務制限条項のより積極的な意義を、条項抵触後の経営者行動と契約条件の変化に着目することで明らかにしていることである。これらの結果は、財務制限条項に抵触することによって借り手企業のコントロール権が貸し手に移行し、モニタリングが強化された結果と解釈することができ、不完備契約理論のインプリケーションと合致する結果である。このように日本においては財務制限条項が、設定時のモラル・ハザード抑制効果よりも、条項抵触後のガバナンス強化のための「仕掛け」としてより機能しているという結果は、日本の財務制限条項実務の特徴を浮き彫りにしいる点で独創性・新規性もあるものとなっている。
 以上により本書は卓越する学術書であり、日本経済会計学会学会賞(著書の部)に相応しい。