日本経済会計学会ディスロージャー研究最優秀論文賞
学術賞審査委員会及び理事会の審議を経て、2020年12月12日、薄井彰日本経済会計学会会長は、『現代ディスクロージャー研究』に掲載された著作のうち、以下の優秀な学術論文に対して、日本経済会計学会学会賞ディスロージャー研究最優秀論文賞を授与しました。
受賞作:
「地方銀行単体の業績指標の価値関連性 ─業務純益を明示しない損益計算書の様式の妥当性に関して─」『現代ディスクロージャー研究』第17号、17-47頁、2018年10月31日
受賞者:
赤塚尚之(滋賀大学)
海老原崇(武蔵大学)
受賞理由:
本論文は、銀行の損益計算書の現行様式が業務純益を明示していないことの妥当性について地方銀行を対象とする単体業績諸指標の価値関連性に関する実証分析を行うことにより検証したものである。その結果、業務純益の価値関連性は、経常損益や純損益のそれと比べて遜色ない水準にあることから、現行様式を堅持する必然性がなくなることを示している。その上で、地方銀行の個別損益計算書を通じて業務純益を明示するための具体的な4つの方策を示し、経常損益計算の中途において業務純益を算定表示する損益計算書の様式案について、前述の実証結果を用いた検討をしているものである。
このように本論文は、実証分析を行うのみならず、財務会計の制度研究にエビデンスベースの議論を導入している点で学術的な貢献が極めて高い。また、モデルの選択や分析期間の分割など、丁寧な検証を行っていることもあり、研究の目的に対応した実証分析手法の選択などは研究の体系面からも高く評価できるものである。
さらに、日本における一般事業会社の実証分析においては、メインバンク制度など米国と比較して銀行との繋がりを強調するものが多い上に、銀行業とりわけ地方銀行の経営は社会的にも大きな課題となっており、金融規制の制度変更も度重なり実施されているにも関わらず、学術的には銀行業の財務諸表を用いた分析は少ないという問題がある中で、本論文の銀行業に関する綿密な分析は独創性・新規性が高いのみならず、学術上の大きな貢献があると言える。加えて補遺ではデータベースの詳細を説明しており、実証研究の再現性にも配慮している姿勢は十分評価でき、今後の日本の銀行業の実証分析に貢献するものと思われる。
以上により本論文は優秀な学術論文であり、日本経済会計学会ディスロージャー研究最優秀論文賞に相応しい。